所在: | 山梨県北杜市明野町 |
竣工: | 1993年 |
構造: | RC+木造 |
設計: | 益子義弘 |
施工: | 水野建設(旧) |
延床面積: | 123.06㎡(約56.07坪) |
敷地面積: | 763.00㎡(約231.21坪) |
竣工時の用途: | 山荘 |
名のごとく、明るい野の里である。国内でも有数の日照率の高い地帯と聞く。
茅ヶ岳の裾野がゆるやかに西に下るその土地にはじめて立ったとき、視界をいっぱいに占める南アルプス連峰の雄大さに圧倒された。冬の澄みわたる空気のせいもあったろう、目を南に向ければ遠く富士のシルエットが望まれ、北には特異な山容を持つ八ヶ岳の姿が見張らせた。広く大きな山々の視界がそこにあった。
山荘の基本的な構成は、この風景に対して西に下る土地の勾配を着想のもとにして、スキップ状に差を持つ4段の床レベルからなる。この最下階を、音楽を奏で鑑賞する場として要望のあった音楽室にあて、閉じ気味の室の骨格をコンクリート構造で固めて上階の支持体とし、上部の広がりある木造空間の開放性を支える造りとした。
上階の広間レベルは大きく南アルプスの山容に向かう。この西南の方位から射す夏場の日差しは、引き込み式のスダレ戸でカバーし、他に障子戸を仕込むなど、季節や時間の移りに対する工夫をした。引戸類による工夫は他にも要所に用い、広間に隣接する寝室も床のレベル差で基本的なプライベート性を確保しながら、隠し引き戸で室間の開閉の度合いを調整できる構成としている。
敷地の北側にあったひと叢の木立が大きく育ち、森になった。手前の稲田は、季節を映しながら、毎年に実りの時を迎える。時を経て、山荘はひとつの風景になっている。
益子義弘(設計者)
撮影:Natsumi Yoshida