VILLA COUCOU(近藤邸)
VILLA COUCOU(近藤邸)
現在の用途 : 住宅
所在: 東京都渋谷区
竣工: 1957年
構造: RC地上2階建
設計: 吉阪隆正+U研究室
施工: 小松原工務店
延床面積: 67.2㎡(約20坪)
敷地面積: 193.37㎡(約59坪)


VILLA COUCOU(近藤邸)は、1952年にコルビュジェのアトリエから帰国した吉阪の代表作と位置付けられています。色ガラスを嵌め込んだ小さな開口部、トップライトや メゾネット、コンクリートの表情は、吉阪隆正とコルビュジェの親密な繋がりを彷彿とさせます。
施主の近藤等(1921-2015/フランス文学者・早稲田大学名誉教授)は、数多くの山岳関係の著作と翻訳を残し、アルプスはじめ世界の山々に登り、フランス政府よりレジオンドヌール勲章受賞、シャモニー名誉市民、日本山岳会名誉会員の登山家としても知られています。早稲田の山岳部でともに活動した建築家・吉阪隆正が、友人である近藤等の為に設計したVILLA COUCOUは、近藤夫人のニックネーム「COUCOUカッコウ」から名付けられました。
吉阪隆正のコンクリートによる自由な造形が、戦後モダニズム建築に与えた影響は計り知れません。

VILLA COUCOU(近藤邸)

齊藤祐子「蝶ネクタイの向こうがわ」より

設計は現場から始まる

最初に二つの案が提示されたと、施主の近藤氏は振り返る。「紙片を自由に折りまげて考えた」実施案と、もう一つはピロティ案であった。近藤氏は土地を譲り受けた地主さんの家が北側にあるので、建物が高くなるピロティ案は選択しなかった。
東西に細長い敷地は南側に建物が建ち日照を遮られている。そこで、西側の富士山の眺めを活かし、四角にこだわらずに空間の構成を解決した書斎のある夫婦のための住居を、コンクリートの可塑性ととことん向き合って設計した。
U研究室では実施設計が一区切りして、現場がはじまると「さあ、いよいよ設計が始まった」と気合が入る。図面に描かれたままつくるというより、現場で確認し発見しながら考える。手摺は長めに材料を入れて、端部をエスキスした。浦邸には現場で吉阪が描いた、チョークの線が残されている。図面で考え、模型で考え、現場で考える。それが設計だと叩き込まれた。
ヴィラ・クゥクゥでは、渡邊洋治が担当した初期の図面が何枚も残されているが、基本的な組み立てが決定し、基礎を打ってから、もう一度形を練り直した。大竹十一と滝澤健児が担当して、コンクリートの型枠の割付、開口部と木製の枠の取り合い、建具、家具の詳細を詰めていった。大竹ととことんディスカッションしたコンクリートと木のディティールを滝澤は「形の意味/建築・部分」(1964年 彰国社)にまとめた。
屋根の曲線はなかなか決まらず、吉阪も現場に通って随分やりあった。何日もかけた。最終的には現場で線を決める。足場を組んでからも手直しを続けたという。「近藤さんはよく辛抱強くまってくれた」と滝澤は振り返る。
コンクリートの開口部は内部と外部をつなぐ、意思の表現である。トップライトは空を切り取り、太陽の光を捉える。夜には星も、月明かりさえ入りこむ。  
そして、型枠はコンクリートの表情を決める大切な要素である。けれど、そこに感覚の違いも生まれた。『打ち放しのコンクリートの肌を見ていると、一見堅粗い鈍重なようなその中に、実に温かいものを見出す』と、吉阪はコンクリートの粗い、土に近い感触をつくりだすことを考えた。山仲間の近藤氏は、南米の鋼のような山肌が好きだ。その上、型枠を外すとジャンカが目立つ。最終的にジャンカを、彫刻家の坂上政克氏にお願いしてレリーフに仕上げた。偶然を活かした結果として、アプローチの前面に描かれたレリーフは、建築をより立体的な大きな固まりとして印象づけることになった。現場練りの躯体コンクリートが硬くて、彫刻家は苦労したという。
もう一つ、室内でもコンクリートの存在感を強調しているのが、壁から片持ちで飛び出す階段段板のヴォリュームである。壁際に手摺をつけ、階段の独立性を強めている。吉阪のコンクリートへのこだわりの表現であった。「階段下の色ガラスは、一枚では色が薄く、二枚重ねてしっかりとした色がでた。コンクリート打ち放しの時は安っぽく感じたのに、壁を白の漆喰で塗ると見違えた」と、滝澤は現場での発見を語った。

VILLA COUCOU(近藤邸)

ヴィラ・クゥクゥ訪問

建設中に子ども達が「象さんの家」と表現したコンクリートの住居との出会いは静かだ。 一歩内部に足を踏み入れると、濃密な空間に包まれる。西側にメインの開口部を設け、三方をコンクリートの壁に閉ざされたひとつの空間に、トップライトからとどく光は、筒の中で反射した間接光として柔らかくひろがる。時間と共に微かに光が動き、明るさが変化する。コンクリートの階段、色ガラスの開口、木製の開口部も注意深く配置されている。南を閉ざしたことで、刻々ときざむ時を感じる。とても不思議な感覚として、今も身体に残されている。ヴィラ・クゥクゥの場所の記憶である。
住み始めてからつくった小さな家具にも近藤氏は細心の注意を払い、キッチンの排気ダクトの吸い込みが悪かったので、形を変えずに、内部に二重にダクトをつくった。屋根の防水工事でも、外壁に見切りが見えないように、注意深い配慮が見られる。木製の建具は既製品のサッシに取り替えられないので、塗装のメンテナンスをしっかりとしていると伺った。

吉阪の自然観であり建築観、『人間の理性など太刀打ちできないような世界、大自然の大法則の中に溶け込むような』住居の原型につながるコンクリートの小さな住居は、現代に訴えかける大きな存在である。

『実験住居』2020年