所在: | 大阪府箕面市 |
竣工: | 1995年 |
構造: | 木造 地上2階建 |
設計: | 村野・森建築事務所 |
施工: | 鈴木工務店 |
延床面積: |
167.24.82㎡(約50.59坪) 1階 160.84㎡(約48.65坪) 2階 40.82㎡(約12.34坪) |
敷地面積: | 286.81㎡(約86.76坪) |
竣工時の用途: | 住宅 |
この住宅は、村野・森建築事務所の設計室長であった近藤正志の設計による数寄屋建築である。近藤は都ホテルやプリンスホテルの設計者としてよく知られているが、数寄屋、茶室建築の建築家としても名高く、同時期の作品として、京都宝ヶ池プリンスホテルの茶寮や、都ホテルの可楽庵、そして伊豆長岡の三養荘は特に有名である。
施工に携わったのが、京都を代表する数寄屋大工の名匠、鈴木義計の鈴木工務店である。鈴木工務店はこの時期の近藤の作品、宝ヶ池プリンスホテルの茶寮や三養荘でも、古より培ってきた匠の技で、この高度な仕事を見事に成し遂げている。
屋根は一文字瓦と銅板葺きによる棟を重ねた複雑な構成で、軒が深く繊細である。壁面は真壁造り、リシン掻き落しの壁に格子が映える美しい外観である。街並みに溶け込みながらも、陰翳の深い情緒ある風情が印象的である。
内装も真壁造りで、諸室が中庭、茶庭と繋がり、爽やかで開放的である。造作は繊細で華やか、数寄屋ならではの視線の動きに則した設えや、心の静けさや安らぎを大切にした趣のある空間である。
玄関は茶寮のように設えられており、客用と家人用がある。プランの構成は主動線や水廻りは西側へ、居間と食堂が中庭を挟んで配されている。この風情ある中庭を囲んで、家人の様子がそれとなく伝わるようになっており、親密でありながら適度な距離がとれた住み心地のよい住いである。奥の和室二間が水屋を挟んで雁行しがら繋がり、最奥に小間の茶室が設えられている。茶室は一畳台目向板入り向切りの本格的なもので、塀の北東の角に露地門があり、正客はここから茶庭に入る。路地は飛び石と延べ段の構成で、母屋の広縁を待合に使う形をとっている。
古今茶の湯を代表する千家には、千家十職という職人たちがいる。茶碗をはじめ、茶道具などを千利休の時代より納めていた者たちであるが、村野・森建築事務所にもそのような特別な職人たちがおり、長年に渡り作品造りを支えてきた。この邸宅にも、その者たちによる見事な手仕事が残されている。残念ながらその職人たちの多くが他界したり、廃業していたりして、この優れた手仕事は所謂“二度とできない仕事”となってしまった。
出来栄えは文化財クラスといってよく、建築主が、愛情深く大切に住んできたために手入れが行き届き、コンディションも申し分ない。逆に、歳月を重ねたことで、渋みや深みが増し、落ち着きがあり、気品が漂っている。
この優れた建築家と名工による作品の価値を理解し、愛して頂ける方に継いで頂き、後世へ伝えて頂けたらと強く願っている。
(佐藤健治/建築家/矩須雅建築研究所、元村野・森建築事務所所員)